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生活行動に基づく需要発生メカニズムの検討 -在宅勤務を例に-

弊社 副主席研究員 水谷と研究員 岩本が、第41回エネルギー・資源学会研究発表会で研究発表を行いました。


【背景・目的】
近年デジタル技術・デジタルサービスの発展により需要構造が大きく変化しつつある。それに伴い、需要推計の不確実性は高まっており、実情に即した推計が難しくなってきている。例えば在宅勤務が増える場合、家庭部門の空調・照明需要が増加する一方、移動需要、オフィスの空調・照明需要が減少する可能性があり、消費者の生活行動が様々な部門に影響を及ぼしうる。また、移動時間の減少により空いた時間は新しい需要を生み出す可能性もある。このように、代替も含めて整合的に需要を想定しつつ、また需要側での対策を検討するためには、需要を直接想定するのではなく、需要の発生メカニズムを理解すること、すなわち生活行動から発生する需要を構造化することが必要となる。こうした背景を踏まえ、本研究では、生活行動モデルの定量化を検討することを目的とする。

【方法】
1.生活行動・消費行動に関するアンケート調査の実施
生活行動に加え、需要の代替変数となりうる消費支出、エネルギー消費量を一体的に把握するをWEBアンケート調査を行い、これらの関係性を分析する。
2.アンケート調査結果を用いた生活行動モデルの定量化
重回帰分析と共分散構造分析(以下、SEM:Structural Equation Modelingという)を用いて、生活行動モデルの構築を検討する。

【結果】
1.生活行動・消費行動に関するアンケート調査
在宅勤務増加による変化として、以下の通り整理される。
・仕事日・休日ともに自宅での余暇活動が増える。
・平休日共に移動機会が減り,交通費が減少傾向にある。
・自宅での食事が増え、毎度調理する手間を負担に感じる家庭では、調理頻度が減る可能性がある。
・身だしなみにかける金額が減る傾向にある。
これは限定された調査対象での結果であり、同居家族3人以上の世帯や他の居住地域では傾向が異なる可能性がある。多様な世帯属性の考慮は今後の検討課題である。また、本調査ではコロナ禍特有の生活変化による影響も考えられ、純粋な在宅勤務による影響ではないことに留意されたい。
2.アンケート調査結果を用いた生活行動モデルの定量化
【重回帰分析】
在宅勤務日数が週に1日増加することで、
・自宅での仕事時間が+1.1時間/日
・自宅での余暇時間が+0.1時間/日
・通勤による移動時間が-0.2時間/日
・自宅外での仕事時間が-1.1時間/日
変化することを把握した。

【共分散構造分析(SEM)】
・在宅勤務による外食費について、対面での飲み会、自宅での余暇重視、休日在宅派を経由するルートは負の関係が見られたが、外食頻度は正の関係が見られた。
・在宅勤務している世帯はもともとインドア派の人が多くなっている可能性が示唆された。

論題
生活行動に基づく需要発生メカニズムの検討-在宅勤務を例に-
著者
水谷傑・岩本和奏・玄姫・河田浩太朗・鶴崎敬大・秋元圭吾・林礼美・中野優子
掲載誌
第41回エネルギー・資源学会研究発表会講演論文集, pp.200-207, エネルギー・資源学会, 2022年8月

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