住環境計画研究所の歩み

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第9回 2010年代(家庭CO2統計)後編:家庭CO2統計の実現と展望

※この記事は住環境計画研究所の創業者であり、代表取締役会長である中上英俊に対するインタビュー記録(2023年10月3日実施)に一部加筆して再構成したものです。本インタビューには主任研究員である岡本洋明も同席しています。インタビュアー(青字)は住環境計画研究所の所員です。

前回は、環境省で実現した家庭部門のエネルギー消費やCO2排出の実態を捉える統計調査である家庭CO2統計(正式名称は「家庭部門のCO2排出実態統計調査」)について、この統計ができるまでのことを色々とお話いただきました。今回は主に、家庭CO2統計が実現した時のことや、家庭CO2統計の今後の展望まで、お話を伺おうと思います。

(1)家庭CO2統計を通じて得られる経験

前回は、政策の決定や評価を行う際には、その根拠となるべき実態を捕捉したデータベースが重要であるにも関わらず、日本ではその重要性が認識されておらず、家庭部門の省エネ・省CO2に関する政策も例に漏れず同様だ、というお話がありました。そういう風土の中で、家庭CO2統計が実現しました。2017年には、家庭CO2統計の重要性を伝えるためのシンポジウムも開催されました。家庭CO2統計が実現した時はどういう想いでしたか。

中上:今まで定性的にしか言われていなかったことがビシバシわかってくるわけだから、それはもう、やった!っていう感じだよね。例えば、集合住宅と戸建住宅の世帯におけるエネルギー消費量の差異を定量的に示す統計データなんて、これまで無かったんだからね。

そうですね。それが公的統計として出てきたわけですからね。

中上:そうだね。その他の属性でもさ、高齢者のいる世帯とそうでない世帯の違いとか、定量的に出てくるわけだから。すごい事だよね。

岡本:本当にそうですね。私は最近、家庭CO2統計の結果を色んな視点から見て、グラフを作って、色んなところで紹介して回っているんですが、家庭CO2統計から見える人々の暮らしの姿は、一般の方にとっても目から鱗が落ちるような発見が眠っているんです。生活に密着した調査なので、どんな人にとっても、自身の生活のイメージと比べて結果を見つめることができる。それで、イメージと合う部分と合わない部分の両方を感じることができるんですよね。そしてそのことが、自身の生活を振り返るきっかけになったりもする。日常の延長でデータを見ることができるんです。それに加えて、多くの一般の方にとっては馴染みのない、抽象的ですらあるエネルギー消費量やCO2排出量を関連付けて示すことができるので、その理解の一助にもなり得る。プロから一般の方まで、みんなにとって有用な統計なんだなっていうのは、すごく感じています。

2017年1月10日にJA共済ビルカンファレンスホールで開催された
「温暖化対策シンポジウム―家庭部門のCO2排出実態統計調査と地球温暖化対策への活用―」(注1)の様子

注1)当日のプログラムおよび講演資料はこちらで見ることができます。https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/kateitokei.html

そのような調査にするためには、どのように調査項目を選定するかがとても重要だったと思いますが、調査項目はどうやって決めたのですか。

中上:こんな大規模な調査はやっていなかったけれど、小規模な調査は個別にずっと実施してきたから、エネルギー消費量を説明する上で何が重要かということは、もうノウハウとしてずっと蓄積されていたんだ。あとは、どうやって聞いたら一般の方でも回答できるか、というようなこともね。研究者だと、あれも調べたいこれも調べたいって言いだすんだけど、でも、素人に簡潔に説明しないといけないわけだから。冷蔵庫の製造年月日だって、どこに書いてあるかをちゃんと示さないと答えられないからね。長年の経験から、ここまでなら一般の方でも回答できるはずだ、という感覚があるんだよ。

岡本:私にとって驚きだったのは、自宅で使っている給湯機器が何なのかを知らない人がかなりいる、ということですね。特に、賃貸のアパート暮らしの単身者だと、お湯を作っている熱源が電気なのかガスなのかすら知らないケースが多い。給湯は家庭のエネルギー消費量全体の1/3ぐらいを占めているわけですが、それが何によって賄われているのかが分からないということです。とは言っても、仕方ないですね。給湯設備は通常、目に見えない場所にあって、給湯器のスイッチを入れて蛇口をひねれば、お湯は出てきますから。

家庭におけるエネルギーの存在というものは、生活者にとっては意識することは少なく、当たり前のように使えるようになっています。そういう状況で、どうやってエネルギーの使われ方を変えてゆくのか、ということを考えると、先ずはエネルギーと生活との関わり方を見えるようにしないといけない。エネルギー消費は生活の足あとのようなものです。それを私たちが上手く拾い上げて、生活者や行政などに橋渡ししてあげたい。そのためには、この家庭CO2統計が重要になります。

それに、私たちは毎年、膨大に返ってくる一般の方々からの調査票に目を通して、データの精査をしています。回収されてくる調査票を見ていると、人々のエネルギーに対する意識が、直接回答されているわけでもないのに、何となく感じられるようになるんですよ。前述の、給湯機器が認知されていない、というのもその1つですね。

中上:ものすごいノウハウが蓄積されているんだよ、そこには。それが正にノウハウなんだよ。公表されている統計データを見ただけではわからない、非常に大きなノウハウの源泉なんだよ。仕事ってそういうものだと思うんだよね。きついけれど、その過程で得られた情報というものは、他には代え難い価値がある。そのために仕事をやっているっていう実感があるね、僕は。だから、君らは仕事が厳しいと思っているかもしれないけど、ふっと気がついて振り返ってみると、もう余人を以ては代えがたい、簡単には追いつけない位置にいられるようになるんだ。

岡本:ありがとうございます。励みになります。とは言え、業務の効率化は、常に検討の必要があるんですけれど、やりすぎたくないという気持ちもあります。それをどこで線引きするかの判断においては、データの生々しさを感じられる距離感が重要だと思っています。私の出身は機械工学なので、入社前までアンケート調査や統計調査ということに馴染みがありませんでした。そんな状況で2015年4月に入社し、家庭CO2統計のプロトタイプである全国試験調査のデータ精査を担当しました。10,000票以上の回収票の中で眠っている個々の回答の生々しさに触れて、人々の暮らしの幅広さに気づくことができました。

中上:不毛な作業に思えるかもしれないけれど、実はあそこに山ほど宝が埋まっているわけ。

岡本:結果に対する批評的な考察の土台になりますよね。何でもかんでも鵜呑みにはしなくなります。

中上:そういう苦労をまた次の若い人にバトンタッチしていかないと、あなた1人で全部溜め込んだらノウハウも広がらないよ。

岡本:その通りですね。


(2)家庭CO2統計の土台となった人脈

岡本:ところで、先ほどお話しましたが、私が入社した2015年4月は、家庭CO2統計はまだ本格的にはスタートしておらず(2017年4月に本格的に調査開始)、プロトタイプである全国試験調査の最中でした(注2)。この調査は、家庭CO2統計を公的統計調査として実施するために求められる調査仕様を検討して決めることが主たる目的でした。さきほど会長が仰っていた通り、それまでも当社では数多くのアンケート調査の実施経験がありましたが、公的統計として実施するには、これまでのやり方がそのまま適用できるわけではなく、やはり、統計学的に適切と言えるような方法に則って実施することが求められます。

私は入社してすぐ、適切な欠測値の補完方法の検討を行いましたが(注3)、これも自分たちで勝手に決めた方法で実施するわけにはいきません。また家庭CO2統計は、調査員調査とインターネットモニター調査の2種類を併用しているという、極めて特殊な特徴を持っていますが(注4)、この2つの調査を同じものと見なして集計してよいのかどうか、という、難しい課題もあり、当時、水谷さん(水谷傑 副主席研究員)が連日苦労されていました。

こういう難しい課題に対して、家庭CO2統計の有識者検討委員会の委員として長く関わっていただいている美添先生(美添泰人先生・一般社団法人新情報センター会長・青山学院大学名誉教授)には、本当に多くのご指導・ご助言・ご協力を賜り、一言では言い表せないほどの感謝の念があります。家庭CO2統計を語る上では、美添先生始め、統計の専門家の方々にもすごく恵まれたことも、欠かせない要素ですよね。

中上:そこは人脈なんだよ。最初のキーパーソンは田辺くん(田辺孝二先生・東京工業大学名誉教授)。僕は昔から個人的によく知っていて、彼が若い頃から付き合ってきたんだ。彼は経産省で統計行政に従事していて、統計部長の経験もある。だからたぶん彼は統計に明るいだろうと思って、彼に相談して有識者として関わってもらうことになったんだ。そうしたら彼は、自分の個人的な人脈で統計の専門家である美添先生と、総務省で統計審査官をされていた桑原さん(桑原廣美さん・公益財団法人全国生活衛生営業指導センター 指導調査部特別指導室研究員)を連れてきてくれたんだよ。この3名のチームはすごい大きな財産だよ。田辺くんは経産省で実際に商業統計や工業統計等を実施していて、詳細な分析をしたり、白書を出したり、ということをしていた人なんだ。桑原さんは様々な公的統計を、総務省で審査していた人なんだよ。それに、統計学の大家の美添先生まで加わってくれた。この3名は本当に絶妙なコンビネーションを発揮してくださって、ことあるごとに親身になってご尽力くださった。この人たち無しでは、こんな統計は作れなかったよ、きっと。

岡本:間違いないと思います。

中上:しかもその先生方がみんな、住環境はすごくよくやっていると褒めてくれたからね。みんな、苦労して良かったよ。

岡本:そうですね。公的統計を1から作っていくという経験は、普通はなかなかできないですよね。そういう、たまたま巡ってきた時に、タイミングよくそういった方々にご協力いただけたというのは、人付き合いの重要さを感じますね。

中上:こういう状況になってから専門家を探しているのでは間に合わないよ。知り合いの中から、これなら彼だな、と思える人がいることが大事なんだ。

2017年度統計関連学会連合大会(名古屋)では、美添先生と横浜市立大学の土屋隆裕先生と共著で発表も行った。(注5)

注2)全国試験調査は2014年10月~2015年9月に実施。
注3)家庭CO2統計では12か月連続で毎月の電気・ガス・灯油・ガソリン・軽油の消費量および支払金額の回答を求めている。年間のエネルギー消費量・支払金額が主たる集計対象であるため、全12か月分の回答が揃う必要があるが、12回もの調査があると、どこかで無回答や誤回答が発生しやすい。しかし、1回でもそのような回答が含まれている世帯を全て除外してしまうと、有効な回収数が大幅に減少してしまうため、適切な穴埋め補完を行う必要がある。
注4)調査員調査とは、住民基本台帳から無作為に抽出した一般世帯に調査員を派遣して調査依頼を行うもので、通常、世帯を対象とする統計調査はこの方式で実施されている。インターネットモニター調査とは、調査会社が保有しているモニターパネルに登録されているモニターから、調査に協力してくれる世帯を募集する方式で、この方法を採用している統計調査は極めて珍しい。
注5)http://www.jfssa.jp/taikai/2017/table/program_detail/pdf/151-200/10193.pdf

会長は以前、「僕の人脈は仕事の付き合いじゃなくて個人的な繋がりだから」っていうことを言っていましたよね。それは重要だと思うのですが、仕事をしながらそういう人間関係を構築するというのは、なかなかできないですよ。

中上:なかなか真似できないだろうね。でもそれはさ、一緒に苦労して一緒に悩んだ仲間なんだよ。

そもそも、田辺先生との最初の出会いは何だったのでしょうか。

中上:最初は内閣府の経済企画庁の委員会だと思うよ。オイルショックがあった頃。当時は国民生活局というところがあって、そこで国民生活審議会という会議があったんだ。そこで、暮らしとエネルギーみたいなテーマで議論があった。オイルショックでエネルギー価格が跳ね上がる中で、どうやって国民生活を守るか、っていう委員会だったね。そこに何故か僕が呼ばれたんだ。で、行ってみたら、家庭のエネルギーのことがわかる人が全然いないもんだから、結局僕が全部その場を仕切っちゃったんだ。そこに当時、通産省の担当者として田辺くんが来ていたんだよ。その辺りからの付き合いだね。波長が合ったから、その後も付き合いが続いたんだ。

岡本:以前、会長から「田辺くんにコレ渡しておいて」と手渡されたものがあって、見たら田辺先生がカラオケで歌っている、昔の写真だったんですよ。私たちも役所の方々との仕事はたくさんありますが、カラオケに行くような関係にはなれません(笑)。どういう風に付き合っていたのか不思議です。

中上:役所とか何だとか、そういう関係を離れて個人的に付き合っていたんだ。でもまぁ、今だったらそういうのはないだろうね。

そういうところは真似できないですね。しかし振り返ると、その頃から家庭CO2統計の種は蒔かれていたってことですよね。

中上:そうだね。彼があんなふうにステップアップしていくなんて、当時は夢にも思ってなかったよ。結果としてそうなったんだからさ。そういうものなんだよ。

そういう人付き合いの中に、新しいことができるチャンスっていうのが潜んでいるっていうことですね。今私たちが付き合っている人も大切にしないといけないですね。いつ何があるかわからないですから。

中上:胸襟開いて付き合ったら、その関係はちゃんと残るんですよ。それが単なる事務的な付き合いだったら絶対に残らないよね。相手にも響かないし。

岡本:そういうところは最近なるべく意識するようにはしています。今後に残る関係を作っていきたいです。自分がやりたいと思う事って、きっと自分1人じゃなかなか出来ないですから。

中上:そうだよ、オール東京(注6)だってそうだよ。僕は文京区の地球温暖化対策地域推進協議会の会長をやっているんだけど、その担当の人がオール東京の事務局をやっていてね。それで「こういう事業があるから御社でやってみませんか」って言って紹介してくれてね。それがきっかけ。

岡本:私は入社以後、家庭CO2統計にもオール東京にも関わってきましたが、2つとも本当に良い仕事だと思います。

注6)オール東京62市区町村共同事業「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」。住環境計画研究所は2011年度より現在まで、本事業における62市区町村温室効果ガス排出量算定業務を受託実施。


(3)家庭CO2統計の展望

そんな家庭CO2統計ですが、2017年4月にスタートしてから6年半が経ちました。不幸なことではありますが、その間には新型コロナウィルスの蔓延やウクライナ危機という未曽有の事態も発生し、人々のライフスタイルにも変化が起きましたが、そういった部分も家庭CO2統計は捕捉しました。しかし、他の公的統計と比べると、まだまだ歴史が浅いです。これからの家庭CO2統計には、どのような可能性や展望をお持ちですか。

岡本:最近、全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)さんを介して、3回ほど、地域で省エネ診断をされている方や、省エネや環境に関する出前講座をされている方、環境教育等に使えるような教材を作られている方、さらには自治体の職員の方等を対象に、家庭CO2統計に関する講演をする機会をいただきました。家庭CO2統計の有用さを知ってもらい、多くの方々に活用してもらいたいと思っていて、その点を訴えているのですが、有用か否かということ以前に、単純に面白いんですよね、家庭CO2統計から見えてくることが。先ほども言いましたが、生活の統計なので、自分の生活が、世の中と比較してどのぐらいの場所にあるのか、という立ち位置が見えてくる。それを、いろんな視点から示してあげると、皆さんどんどんと興味を持ってくださるんです。

中上:そうだよ、ここでこんなことがわかりますよ、って、どんどん教えてあげればいい。

岡本:そうなんですよね。で、この、単純に面白いっていうところが、少しずつではありますが、響いてくれると嬉しいです。そうすると、省エネや省CO2が身近に感じられるようになっていく。そうしていくうちに、家庭CO2統計が人間関係をも広げてくれるんです。

中上:そうだよ。それでその輪が広がっていけばね、その重要性が理解されるようになっていって、予算を拡充してより詳細な統計を作りましょう、という流れになっていく。そういう方向にまで持っていかなきゃいけないんだよ。今の家庭CO2統計だと、全国を10地方別でしか見られないから、やっぱり、都道府県別ぐらいまではできるようになると良いよ。

岡本:本当にその通りです。自治体の方々に話を聞くと、やはり自分たちの自治体を取り出して見られないと使いづらい、ということをよく言われます。都道府県別にまでしようとすると、予算規模が大幅に増えないといけないので簡単ではないのですが、そうなると良いな、とは常々思っています。一方で、都道府県別値があったら十分か、と言ったら絶対そんなことはない。例えば東京都の場合、東京23区と檜原村なんて全然違います。檜原村はCO2排出量よりもCO2吸収量の方が多い自治体ですからね。都道府県別値ではそれが一緒くたになっている。だから、都道府県単位であっても10地方別単位であっても、平均値だけではだめで、その中に含まれるばらつきを知ることが大事になると思います。平均値はあくまで比較対象として見て、自分や自分の自治体が、それと比べてどう違うのかを考えるきっかけとして統計を使ってもらえれば、それはそれで価値があるんじゃないかなって、最近は思っています。

美添先生は以前、この統計を政府の基幹統計にすることを目指してはどうか、ということを言ってくださったことがありました。今は一般統計ですが、いつか本当にそうなれば良いな、と思ってしまいますね。

中上:あとは、やっと家庭用でここまでやってきたけどさ、本当は業務部門も同様にやるべきなんだよ。業務用のエネルギー消費実態なんて、全然わかってないんだよ。用途だって多様だよ。さっきも言ったけど、すし屋とラーメン屋ではエネルギーの使い方なんて全然違うんだ。それなのに「飲食店」と一括りにして議論しているだろ? それで誰に何を言いたいんだ、ってことだよ。そんな情報を見せられても、どこをどういう風に省エネしたら良いかなんて、誰もわからないんだよ。省エネをやるにも、ベースラインすらないんだから。そんな状況で省エネを評価しようがないよ。

これは言い換えると、眠れる省エネの可能性がいっぱいあるっていうことだよね、きっと。だから業務部門の実態把握は絶対やるべきなんだ。家庭よりもずっと大変だよ。業種がすごい多いから。その一環で、ちょっと手間暇かけて、中小ビルだけでも良いから、ビルに設置されているビル用マルチエアコンの製造年代を調べられれば、それの置き換え効果があっという間に算出できるようになると思うよ。その上で、古いエアコンにはリプレイス用の補助金をつけてやれば、メーカーにとっても新しいマーケットができるんだ。メーカーだって「全国ではこのぐらいの導入可能性があります」って言われたらさ、やる気が出るんじゃないの。

そういうことやるべきだと僕は思うんだよね。だからそういうデータが必要なのに、データベースがないまま、省エネ省エネって言ってんだから。家庭部門は、家庭CO2統計ができてやっと、こういうことが言えるようになったんだよ。家庭CO2統計を見れば、古い冷蔵庫がどのぐらい残存しているかって、すぐにわかるだろ?だから、その台数分、最新の冷蔵庫に代われば、どの程度の省エネ効果があるかっていうことはすぐ算出できるわけだ。

岡本:そうなんです。省エネ診断をされている方からも、そういうデータが欲しいって言われましたが、家庭CO2統計があればパッと出せるんです。

2023年9月13日には、滋賀県地球温暖化防止活動推進センターの研修会で講演を行い、
滋賀県で省エネ・省CO2のための活動をされている方々と、家庭CO2統計がどう生かせるかについて議論を行った。

家庭だけに留まらず、業務部門にも挑まないといけないということ、よくわかりました。会長はこの家庭CO2統計が今後どうなっていってほしいですか。

中上:まずはきっちりと、連続性を持った形で、あまり極端には改変せずに、粛々とデータを蓄積していってほしいね。途中で大きく変えちゃうと、連続的に分析できなくなるからね。そんなことが起きないように、やっぱり常に気を配っておいた方がいいと思うね。その時々で、いろんなニーズが出てくると思うけれど、押さえるべきは、家庭の基本的なエネルギー消費構造だからね。あとは、10年経ったところで、10年分まとめて経年的な分析をしっかりやっておく必要もある。それから、本当は毎年か2年に1回かは、一般向けに、きちっとした白書のようなもの出すべきじゃないかな。そうしないと、統計データがあるからアクセスしてくださいって言っても、専門性のある人しかアプローチできない。データを使おうと思っても、今の状況ではすごく面倒臭いわけだから。情報の発信の仕方を考えないとね。

岡本:ちょっと話は逸れますが、福井県にある水月湖という湖の底には、木の葉や花粉や黄砂等といったものの堆積物が7万年分も綺麗な層を成して積み上がっているんです。それを年縞というんですが、水月湖の年縞を分析すると、何万年も前の植生景観を再現できて、さらに世界の気候がいつどのように変わってきたかということまで、精緻にわかるんです。我々が普段議論している気候変動のレベルをはるかに超えて、遠く何万年も昔の寒冷期や温暖期の状況までも全部見える。

さすがにそれと比べると規模は全然違いますけど、今この時代の人々の暮らしとエネルギーに関するデータを丁寧に蓄積していって、次の世代に見せていくということは大事だなって思うようになりました。過去を知ることで今を知ることってあると思うので。100年前に新型の流行病が蔓延したらしいけれど、その時の人ってみんなどう暮らしていたんだろうか、とか、思うこともあるかもしれませんよね。ちょっと壮大な話ですが。

中上:まずは50年分あったら充分だよ。ちょうど会社が50周年だけど、記念に50年前のことを書こうと思ってもデータが無いんだから。50年前、家庭用のエネルギーがどうだったかっていうことを示すデータが何にもないんだよ。その時の住宅のことも何もわからないし。アメリカなんか1930年頃からデータがあるんだよ。だからまずは50年だね。

ありがとうございます。家庭CO2統計の始まりから実現までの道のり、あとは実現に至るきっかけとなった人脈、さらにはこれからの展望まで、大変興味深いお話をいただきました。

(第10回に続く)

次回は12月の更新予定です。

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