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停電の危機から学ぶもの

関東地方は、例年にない遅い夏の到来のようだ。天の配剤なのだろうか?電力需給の逼迫から停電の危機が心配されていたが、どうやら回避できそうな気配である。梅雨明けが二週間早かったら、と思うと冷や汗がでそうだ。

6月中旬、パリにあるIEAから招待を受け、世界の停電にまつわる経験を議論する会議に参加してきた。当然招待者側は今夏の東京での停電の懸念も念頭に置いた上のことだったようだ。ノルウェー、ブラジル、ニュージーランドから停電対応の経験が報告された。イタリアは目前の電力危機への懸念が報告されたが、会議終了後の数週間後にそれが現実のものになったとの報道を見て、思わず東京はどうなるのかと心配になった。前の三者は、いずれも気候の変化で異常な渇水が原因だったそうだ。イタリアは、ご承知の通りフランスからの電力輸入が不調だったとかで、こちらは自然災害ではなく社会的な原因だといえそうだ。とはいえ、今年の欧州は6月はじめから地中海沿岸をはじめとして異常なほどの高温におそわれ、これがイタリアでの停電につながったことはご承知の通りだ。もし東京でこのような熱波が早々と到来していたら、と思うとゾッとする。

一方でここまで夏の到来が遅れると、電力需給の危機は何とか回避できたとしても、農作物への影響をはじめとして社会経済に与えるマイナスは少なくないはずだ。どうやら気候変動は着実に進行しているのではとの思いも日増しに強くなってくる。

さて、停電への危機はひとまず回避されそうだが、この問題が俎上に載り始めた今年初め、この問題を一般需要家はどのようにとらえているのかについての調査を依頼された。家庭用需要家だけでなく一般商店や公共交通機関、病院等々に調査を行ったが、3月時点では殆どの需要家は全く意識すらしていない状況だった。電力のみならず、エネルギーとくらし・社会活動のあり方を再考するにはそれなりに願ってもない機会かと密かに期待したのだが、正直がっかりしたものだった。その後、この問題を議論したり、マスコミからの取材も多く受けたが、どうも今ひとつこの問題が提起しているくらしとエネルギーとの関わりにまで思いを致すには至らなかった。これを日本人特有の対応とするにはいささか短絡的にすぎるのかもしれない。ことは電力会社一社が招いた事柄であり、消費者としてはその責務を電力会社に負わせればことが済むと考えたのではないだろうが、どうもそのような気配を感じたものだ。これが、天災であったらそうではなかっただろう。

停電は回避できそうだとしたが、その一つに恒例の夏休みが年を追うごとに昔の旧盆一極集中から、分散傾向になってきたこともあるのではないだろうか。しかし、旧盆明けの8月下旬から9月にかけて、夏休みも終わる頃ひときわ厳しい残暑が到来すると、ことは楽観を許さないかもしれない。そうならないことを祈るばかりである。

さて、幸いにして停電という最悪の事態を回避できたらどうなるだろうか?ひときわ高い原発不要論が巻き起こらないことを望みたいものだ。今夏の非常事態により緊急稼働した汽力発電所の活躍はそれとして、地球温暖化ガスである二酸化炭素の排出量は異常な多さになったはずだ。また、電力会社が需要家に対して説得力を持った省エネルギーの推進が困難であったことにも思いを致す必要があろう。欧米型のDSMが普及していたらもう少し事態は変わっていたかもしれない。ピークシフトだけでなく、積極的な省エネルギー推進に電力会社の優れた資源を生かしてもらいたいものだ。またそれを下支えするエネルギー政策のあり方も考えるべきだろう。もし自由化がもっともっと進んでいたら、今回の問題はより複雑な状況を示したかもしれない。

今回の教訓が生かされることを望みたい。

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