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CO2排出25%削減に向けて、今後予想される国民生活への影響

CO2排出25%削減に向けて、今後予想される国民生活への影響

2010年6月 8日

鳩山総理は昨年9月の国連総会の演説で「わが国は、1990年比で2020年までにCO2排出量の25%削減を目指す」との声明を発表した。政権が交代し、新しい枠組みで考えるとの意気込みだが、その実現は容易ならざる目標値であることをどれだけの人が理解しているのかいささか不安である。
温室効果ガス排出削減のための約束が交わされると目されてきた昨年末のコペンハーゲンでのCOP15で、すべての主要国の排出規制に関する確かな合意が得られなかった事から、とりあえずはこの数値目標が国際公約として採択されたわけではないのがせめてもの救いかもしれない。
さて、25%の削減という数字が一人歩きしているがこの数字は1990年、20年も前の排出量が基準であることをわきまえておく必要がある。
しかし、一般消費者にとって20年も前の時代がどのようであったかはとても実感できるものではないだろう。家庭におけるエアコンの普及がやっと一家に1台の水準になったのが1990年だ。ちなみに現在は一家に3台弱の普及である。
家庭での暖房はまだ石油スト-ブが主流であった。パソコンはというとまだ10軒に1台、携帯電話が統計に計上されるのは2000年代に入ってからである。この時代はやっとプッシュホンが普及し始めた頃だ。

30%を超える削減に挑む必要が

こうしてみると随分昔の話ということになるだろう。なぜこの1990年が基準年になったのか、今考えても不思議である。これは、申すまでもなく1997年の京都議定書の約束で決められた年である。新しくリセットするのならば、もっとわかりやすい直近の年を基準にした方がはるかにわかりやすいと思われるがいかがであろうか。ちなみに、直近の2005年を基準年とすると(といっても5年も前になるのだが)、この25%削減は30%削減に相当することになるのだが。
したがって、われわれはこの目標をクリアするには、30%を超えるCO2の削減に挑まなくてはいけないことになる。これを省エネだけで達成しようとすると、おおよそ3日に1日すべての活動を停止することに相当する。25%であっても4日に1日停止ということなのだから並大抵なことではないと想像できるだろう。
では、もう少し具体的に家庭におけるエネルギー消費水準から見て25%削減の意味を考えてみよう。家庭用のエネルギー消費量は1990年から2007年までに1.4倍に増加した。これが同じ民生部門の業務用と共に、京都議定書の目標達成に向けての元凶のごとく指摘されている由縁だ。
しかし家庭部門の4割の増加の内訳を見ると、その4分の3は世帯数が増加したからに他ならない。残りの4分の1が世帯あたりのエネルギー消費の増加に起因する。

世帯あたりエネルギー消費量のおよそ半減が求められる

1990年の生活の一端は上述したような機器の普及レベル下での生活水準だった。それから17年経ってエアコンは2~3倍の普及、テレビも一家に3台に近い普及、温水洗浄便座はほとんど普及がなかった時代からほぼ全世帯に普及した。その中で世帯あたりの家庭でのエネルギー消費量が1割の増加にとどまっていることはむしろ一方で省エネが進んだことを示唆しているといって良い。
さて、ではこの家庭でのCO2をエネルギー消費量を減らすことで達成しようとすると、どのようなことになるのだろうか?まさか世帯数を減らすなどということは出来ないから、世帯あたりのエネルギー消費量を減らすことになる。
となると、世帯あたりのエネルギー消費量を現在の消費水準から48%削減しなければならないことになる。これは1965~1968年頃のエネルギー消費水準に等しい。冷房もない、カラーテレビが普及し始めた頃である。
もちろん、現在の家電機器のエネルギー消費効率は当時をはるかに上回る高効率だし、住宅もずっと省エネ的になっているのだから、すべての生活水準が当時に戻るわけではないだろう。しかし、そうであっても現在の利便性、快適性を求めるにはほど遠いエネルギー消費水準であることに間違いない。
それでは、省エネルギーだけでなく、新エネルギーを導入するとどうだろうか?家庭での新エネルギーの代表選手と目されている太陽光発電を例に取ると、3kWの太陽電池でおおむね年間3000kWhの発電が見込めるから、おおよそ一般家庭の電気の6割弱がまかなえることになる(一般には発電量をすべて自家消費する例は無いから、売電したものも消費部分と合算してという仮定での計算である)。しかし家庭でのエネルギー消費全体では25%程度の自給にとどまる。

石油危機当時の規制がないと達成は難しいか

加えて太陽熱を利用して暖房・給湯をまかなうケースを想定すると、約25%強の削減が可能になる。両者を併せると48%を超える削減が可能という計算になる。日本全体での話だから、すべての住宅に設置されたとすればというわけだから、2010年までにとても達成できそうにはない。3kWの太陽電池と、暖房・給湯をまかなう太陽熱温水器を載せるスペースは戸建て住宅でも容易ではないのだから、集合住宅となるとなお難しいことになる。
しかし、今後の省エネルギー機器の開発普及、新エネルギー利用の可能性の拡大を考えると、2020年は無理にしても、2030年、2040年と時間があれば実現可能性は大きくふくらむだろう。それでも2020年までに1990年比 CO2の25%削減を達成しようとするならば、2度の石油危機直後に経験した、思いきった規制を導入しなければ達成が難しいのではと考えている。
あのときにはテレビの深夜放送は停止、日曜日はガソリンスタンドは輪番制で休業、ネオンサインの点灯も一定時間で消灯等々であった。個人的には当時さして不都合を感じた覚えもなかったのだが、あの当時は自家用車の普及も今とは及びもつかないほど低かった。深夜営業の店などほとんど無かったのでは。デパートも週に1日は休業だったように記憶する。
あれからすっかり生活スタイルが変わってしまった現在、とてもあのような対応は難しいという気がするが、やがてはこれも避けては通れない課題だろう。

社会生活の根本的見直しは避けられない

それでも、来るべき時代の流れを考えるとき、われわれの家庭生活、社会生活そのものを抜本的に見直すことは避けられないものと考えた方が良さそうである。加えて、人口は減少傾向に転じ、やがて世帯数も減少基調に転じる時代が目前だ。すべてを右肩上がりで考え走ってきたわれわれ日本人にとって、初めて右肩下がりの時代を迎えることになる。
誰も経験しなかった時代の中で、このCO2削減の動きはそれに先駆けて回答を迫られている。それでも、きっとそれを突破して、新しい時代を切り開くことにせめて希望を持ちたいものだと考えている。

20100608GRAPH

図 2020年25%削減の実態

出典:月刊「商工会」2010年6月号

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