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2002年5月コラム

1.民生家庭部門のエネルギー消費の動向

家庭部門のエネルギー消費は、世帯数の増加と一世帯あたりのエネルギー消費(エネルギー消費原単位)の増加があいまって、現在も増加基調にあります。欧米の先進諸国にあって、エネルギー消費原単位がいまだに増加し続けている国はありません。むしろ減少傾向を見せている国もあります。なぜこのような違いがあるのか、わが国の住宅におけるエネルギーの動向について考えてみたいと思います。

1-1.エネルギー支出の推移

家庭のエネルギー支出の推移家庭におけるエネルギー支出(光熱費支出)は、エネルギー価格の変動とほぼ連動して増加と減少を傾向を続けていましたが、1990年代に入ってからは価格が安定的に推移する中にあって、支出額は増加傾向を示しています。2000年における世帯あたりの平均エネルギー支出は前年より約6千円増加し、20万35円/世帯・年と初めて20万円を超えました。家庭の消費支出全体に占める割合では5.3%となり、1986年以降最大の割合を占めています。
エネルギー種別の支出構成割合は、電気57%、都市ガス20%、LPG16%,灯油7%となっており、電気代は年間114,663円の支出となっています。
地域別に見たエネルギー支出では、北陸が最も多く22万6千65円/世帯・年(全国平均の1.1倍)、最も少ないのは九州で18万88円/世帯・年(全国平均の0.9倍)です。

1-2.エネルギー種別消費原単位の推移

2000年のエネルギー消費原単位は47,753MJ(11,408Mcal)/世帯・年と過去最高となり、対前年比1.7%の増加を示しました。
エネルギー種別の構成割合は、電気37%、都市ガス25%、LPG14%、灯油25%となっており、電気の全体に占める割合は過去最高で一貫して増加傾向が続いています。
第二次石油危機(1979年)以降のエネルギー消費の年平均伸び率は1.7%、最近5年間では暖冬の影響もあってか0.8%に低下しています。この5年間における各エネルギー種別の年平均伸び率は電気2.1%、都市ガス0.9%、LPG-0.8%、灯油-0.3%となっており電気の伸びが際立って高いのに対し熱需要をまかなう他のエネルギーの伸び率が低くなっています。

1-3.用途別エネルギー消費原単位の推移

2000年の用途別エネルギー消費原単位は、暖房用13,130MJ(3,137Mcal)、冷房用1,200MJ(287Mcal)、給湯用15,972MJ(3,815Mcal)、照明・家電製品用13,523MJ(3,231Mcal)、厨房用(煮炊き用コンロ需要)3,928MJ(938Mcal)となっています。全体に占める構成割合で見ると、最も多いのは給湯用で33%、次いで照明・家電製品用28%、以下、暖房用27%、厨房用8.2%、冷房3.8%となります。
各用途別の推移では、暖房用は第二次石油危機以降年平均伸び率は2.6%ですが、最近5年間では1.8%と緩やかな伸びになっています。
冷房用は他の用途と比較すると消費原単位自体は小さいものの、最近の10年間では年平均3.5%の伸び率で増加を続けている。今後しばらくはこの勢いが続くものと推察されるでしょう。
給湯用は、第二次石油危機以降の年平均伸び率は0.9%で最近の5年間ではほぼ横ばいの傾向です。すなわち給湯用エネルギー需要はほぼ充足水準にあるのではと考えられます。
照明家電製品用のエネルギー需要は一貫して増加基調にあります。第二次石油危機以降の年平均伸び率は3.1%と高く、最近5年間でも2.2%と依然高い伸び率を示しています。
厨房用は近年はほぼ横ばいの水準で推移しており、今後とも増加傾向はないものと思われます。これも給湯同様エネルギー需要水準は充足水準にあると考えていいでしょう。

2.家庭用エネルギー需要の国際比較

アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスといった国々の家庭用エネルギー消費原単位は、増加傾向ではなく、横ばいないしは減少傾向で推移しています。これは、家庭におけるエネルギー消費は、ある一定水準に達すると増加が止まることを示唆しています。それでもなお増加しているわが国の場合は、先進国型ではなく、途上国型であるとも言えるでしょう。
ではなぜこのような差があるのでしょうか?エネルギー消費原単位を比較すると、わが国のそれはヨーロッパ諸国の約二分の一、アメリカの約三分の一程度です。この差をもたらしているのは圧倒的に暖房用エネルギー消費なのです。もちろんこの暖房用のエネルギー需要はそれぞれの国の冬の気候条件によって左右されます。わが国はヨーロッパ諸国と比べるとずっと温暖な気候区に位置しています。しかしその差を割り引いてもなお、わが国の暖房用エネルギー消費は低い水準にあります。先進諸国の冬の暖房は、住宅の中に寒いところがない生活が冬の間中保たれているのが普通です。それに対し、わが国の暖房は暖かい気候条件に恵まれているとはいえ、とてもこのような水準ではありません。もしわが国でこれらヨーロッパやアメリカのような暖房水準の生活を達成するには、現在の2ないし3倍の暖房用エネルギーが必要になるでしょう。
その他のエネルギー消費はどうでしょうか?給湯用はドイツやフランスよりも多くなっています。これは給湯用の大半を占めるお風呂でのエネルギー消費が大きく影響しています。ドイツなどではバスタブに湯を張る入浴形態より、シャワーが主体だそうです。住生活文化の違いがエネルギー消費の差をもたらしているのだと感じられます。しかし、冬でもシャワーが主体で済ますことができると言うことは、浴室が十分に暖房されているから可能なのでしょう。とはいえ、わが国でも給湯用のエネルギー消費は、先にも述べましたように、増加が止まり安定的な推移に変化してきたようです。厨房用の煮炊きのエネルギー消費も、給湯同様安定的な推移になっています。
ところが一方、家電製品等のエネルギー消費は、いまだに増加基調を緩める気配は無いように見受けられます。アメリカは別としても、このエネルギー消費はヨーロッパ諸国を大きく上回っていながら、なお増加を続けています。一家に2台、3台のテレビの普及が珍しくないのは日本だけの特徴といってもいいかもしれません。そのほかにも海外では見られないほどいろいろな種類の家電製品に囲まれて暮らしているのが日本の姿です。私たちの暮らしのあり方をこんな面からも見直す時期に来ているのではないでしょうか?

3.省エネルギーに向けて

省エネルギーという言葉が、一般家庭で理解され始めたのは、やはり二度の石油危機以降のことだったといっていいでしょう。このときの一般の方々の「省エネルギー」という言葉の理解は「節約・我慢」といったイメージがほとんどだったのではないでしょうか?石油輸出機構による石油輸出の制限、それに伴う石油製品をはじめとする価格の高騰、市民レベルでの自衛策は緊急避難的な様相を強くし、まさに「節約・我慢」を余儀なくされました。これを経験した人々にとっては「省エネルギー」という言葉がこのようなイメージと理解であったことを想像できるのではと思います。
しかし、これを契機としてその後次々と制定されたいわゆる省エネルギー法は、正確には、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」というのが正式な名前です。まさに「省エネルギー」とは、「エネルギーを合理的に使う」ことなのです。同じ効用を得るために、より少ないエネルギーで目的を達成することこそ省エネルギーの基本といっていいでしょう。いわゆる省エネルギー法はこの思想によって制定されているわけです。
ところがそれ以前に検討されなければならないことがあります。それはエネルギー使用の無駄の排除です。誰もいない部屋の照明をつけっぱなしにしたり、誰も見ていないのにテレビのスイッチが入れられたままであったり、私たちの身の回りにはこのような無駄が少なくありません。今ではすっかり一般的になりましたが、待機電力もその代表選手といっていいでしょう。一つ一つの家電製品の待機電力は小さいのですが、これを集めると、s一般家庭でも年間に1万円を超える電気代にも相当する量になります。さらにこれを日本全国の総消費量に換算すると200億kWhに及ばんとするような膨大な量になります。世界全体ではどうなるのでしょうか?
地球環境問題の縮図がこの待機電力に表れているのではないかと思います。小さな対策を一つずつ地道に積み上げていくことこそ最も大きな効果となって現れてくるのではないでしょうか。

4.将来に向けて

では、わが国の住宅におけるエネルギー需要は今後どのような方向に進もうとしているのでしょうか?高齢化の進展、IT化の進展、少子化による人口減少・・・・・。20世紀には見られなかった新しい現象が次々に現れてくるようです。
一方で、地球温暖化防止は人類にとって避けて通れない命題になっているといっていいでしょう。
豊かさとは何かをわれわれ一人一人がもう一度じっくりと考え直すことが必要なように思われます。われわれが手にしている現在の生活は、途上国の人々にとっては信じられないほど贅沢な水準にあると言っていいでしょう。それでもなお、わが国の暖房水準は先に見たとおり欧米先進諸国と比較するとお粗末のようにも思われます。
今世紀最大の課題のひとつであろう地球温暖化防止にむけて、可能な手段はすべて手がけるとともに、われわれの価値観を今一度再点検すべきではないでしょうか。

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