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暖房制御と見える化システムを備えた省エネサポートシステムの開発(1)介入初年度の省エネ効果と暖房の使い方変化

1.はじめに
本調査は,暖房需要の大きい寒冷地の戸建住宅に着目し,ICTと制御技術を活用して行動変容を促すことで,快適な住環境とCO2排出削減の両立を目指す技術開発・実証の一環として実施した調査である.本報では省エネサポートシステムの構成,介入要素,実験計画,およびシステム導入初年度の省エネルギー効果,室温,暖房の使い方の分析結果について報告する.

2.実証概要
2.1 省エネサポートシステムの介入要素
(1) 省エネサポートアプリによる情報提供
本アプリでは,HOME画面に室内温湿度を常時表示することで,温湿度計としてリビングに設置してもらえるよう画面を設計している.省エネアドバイスは,センサ検知等に基づき必要な情報をプッシュ通知すること,また行動科学の知見を活用することで,モニターの行動変容を効果的に促すことを意図している.
(2) 暖房制御による室温管理
本システムでは,上記アプリで事前に設定したモニター宅の生活パターンに合わせた暖房スケジュール制御を行う.スケジュール設定では,在宅・外出・就寝時の各モードの設定温度と,曜日ごとに各モードの時間帯を設定する.コンシェルジェサーバに入力された設定温度とモニター宅で計測した住環境データから熱源機の運転要否を判断し,現在室温≒設定室温となるよう,暖房ON/OFFや送水温度の制御を行う.
2.2 実験計画
本実証では,各介入要素の効果を検証するためランダム化比較試験によりシステム導入効果を評価する.実証モニターを下記の3群へランダム割付により分類し,グループ間のエネルギー消費量の差や,暖房の使い方の差から,システム導入効果を評価する.
-AT群:情報提供と暖房制御を導入する群(32件)
-FB群:情報提供のみを行う群(34件)
-CT群:情報提供も暖房制御も行わず,計測のみを行う群(34件)

3.調査結果
3.1システム導入による省エネルギー効果の推定
システム導入による省エネ効果の推定値は,AT群では1月が2.8[m3/世帯・月],2月が13.2 [m3/世帯・月],3月が7.0 [m3/世帯・月],FB群では1月が5.0 [m3/世帯・月],2月が11.4 [m3/世帯・月],3月が8.5 [m3/世帯・月]である.2月についてはAT群とFB群のいずれも有意水準5%で統計的有意差が確認できた.
3.2群別の室温比較
本システムを導入したAT群,FB群では,エネルギー削減の可能性を想定した就寝時や外出時の時間帯の温度がCT群と比べ顕著に低い.特に,0~7時の就寝時に最も大きな温度差が見られ,明け方4時ごろのAT群(初期不具合世帯を除く)とCT群の温度差は最大で約1.7度,また日中はAT群とFB群あるいはCT群で約0.7度の温度差となっている.なお,寝室については,AT群とCT群の温度差は明け方最大で約1度見られた.
3.3アンケート結果による暖房の使い方の変化
省エネルギー効果および群別の室温差をもたらした要因を把握するため,アンケート調査結果に基づき暖房の使い方の変化を分析する.
AT群は就寝中,外出中のいずれについても8~9割の世帯がスケジュール制御を利用するようになっており,温水暖房停止やサーモバルブ操作の実施率が減少している.またFB群は省エネアドバイスで推奨した,手動/タイマー制御での暖房停止の実施率が上昇している一方で,推奨していない送水温度変更サーモバルブ操作の実施率は減少している.
以上より本システム導入の結果,AT群では暖房スケジュール制御により,またFB群では温水暖房停止により省エネルギー効果および就寝中,外出中の温度低下が生じたと示唆される.

謝辞
本調査は,環境省「平成28年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業(住環境情報を活用した省エネサポートシステムの開発・実証)(実施主体:北海道ガス株式会社,株式会社住環境計画研究所)」により実施した技術実証成果の一部である.ここに記して関係諸氏に謝意を表す.

論題
暖房制御と見える化システムを備えた省エネサポートシステムの開発(1)介入初年度の省エネ効果と暖房の使い方変化
著者
平山 翔、鶴崎 敬大、中村 美紀子、若狭 純一、徳田 彩佳
掲載誌
第34回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集(pp.261-264), エネルギー・資源学会, 2018年1月

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